企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

日向山うるわしの会(団体のウェブサイト

日向山うるわし会誕生

 朱色のお稲荷さんを守るようにこんもり盛り上がった森、東生田緑地へは、小田急線向ヶ丘遊園駅からバスで10分。地元の人が「日向山」と呼ぶこの緑地を残そうと活動する「日向山うるわし会(以下、うるわし会)」の事務局・山田さんと、メンバーの皆さんからお話を伺いました。
 うるわし会の誕生は2002年。きっかけは川崎市の「市民健康の森」事業でした。
市の7つの区に1つずつ「市民健康の森」が作られることになり、多摩区でも事業への参加が呼びかけられたのです。これに手を挙げたのが、後に「うるわし会」になる地域の人々でした。
 2年間の候補地選びの末、日向山が「多摩区健康の森」に選ばれました。日向山が区の中央にあることも一因のようですが、決め手は、集まった人々の想いだったのでしょう。
「昔からここに住む人たちは、日向山を守りたいという強い想いを持っています。でも、参加したのは地方出身の人も多いんです。自分の故郷を日向山に重ねているのでしょうか。山を残したい想いは地元の人と同じくらい強いんですよ」  この時の山田さんの言葉には力強さがありました。
匠との出会いを記念して1枚

日陰山から日向山へ

 活動前の日向山は笹や竹が生い茂り、昼間でも薄暗く不気味な雰囲気でしたが、活動により陽の光が入り、鳥や虫、人が戻ってきました。
「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞのこれる」
 これは1186年に詠まれた唄です。約820年の時空を超えた日向山で、この唄と同じ情景を山田さんは目にしました。
 「まだ夜の明けない午前4時頃にカッコウの様な鳴き声が聞こえました。耳を澄ますとその声は、以前は日向山にいなかったホトトギスの声だったのです。薄暗い空を見上げると、見えたのはぼんやりと光る月だけでした。でも、日向山にホトトギスがいるとは思いもよらず、感激して胸がいっぱいでした」
 当時を思い出したのか、山田さんの目は遠くを見つめていました。
 他にも、白い花を纏うウワミズザクラや野生のタヌキ、爽やかな風、山道を照らす木洩れ日など、今の日向山には四季の花鳥風月が溢れています。

日向山を守る匠たち

 ここまで日向山を変えたのは、個性豊かな約60人の「匠」でした。
 会の代表で先祖代々この地で梨農園を営む田中清さん。清さんの奥さんは農協に所属し、神奈川県の伝統食の指導者という肩書きを持ちます。さらに、刃物研ぎで優れた技能を持ち、市から「かわさきマイスター」に認定された石井さんや「山の植物博士」滝川さん、「うるわし会専属カメラマン」山田康元さん、植木職人小峰さんなど様々な技を持つ匠が会を支えます。
 月1回の活動には、匠たちに加え、地域の人々も参加します。
「次代に残そう多摩の里山」を目標に、竹の伐採や雑草取り、植樹を行い、小中学生との交流も楽しみます。
「ぼっこ祭り」のある1月は、日向山が最も盛り上がる季節です。子どもたちが唄や太鼓を披露する「青空音楽会」や地域の人々の写真や絵画が展示される「天井のない展覧会」など数々のイベントが開かれます。もちろん匠の技も存分に発揮されます。
「お祭りには私の作ったコンニャクと日向山の野菜で豚汁を作るんだけど、これを目当てに来る人もいるんだよ、アハハ」。伝統食の匠が笑顔で話すと、「相川さんが唄う日向山音頭はとても盛り上がるんです」と、山田さんが新たな匠を紹介してくれました。
匠との出会い、自然とのふれあい

朱い恵みと緑の恵み

 うるわし会の魅力は「匠や自然との出会い」だと感じました。
 山田さんが、小学生の時から会に来ている高校生の話をしてくれました。
 「彼が言うには、人との出会いが活動の魅力なんですって。メンバーから色々学べるのが楽しいようですよ」
 情熱と人情あふれる匠との出会いは、暖かい朱色のお稲荷さんがくれたご褒美なのでしょう。
 また、匠の相川さんは万緑の日向山の恵みをこう表現します。
 「活動に参加できて嬉しいよ。景色は見えないけど、髪や服を揺らす風や草木の香りで山を感じる瞬間が幸せだよ」
 視覚に障害をもつ相川さんが私の手を握り、笑顔で語った時には思わず涙がこぼれました。
活動に参加して-執筆担当:鯉沼 信吾(日本社会事業大学 社会福祉学部福祉援助学科) 3時間の活動は、あっという間の出来事でした。活動の終わりに降り出した雨は、日向山が匠と私達との別れを引き止めるために降らせた「遣らずの雨」のようでした。
 私は草花を見るために腰を屈め、草木や虫とふれあい、森や風の匂いを感じたのは小学生以来でした。活動中は全員がぼっこ(子ども)に戻ってしまったかのように作業に夢中でした。これもきっと活動の魅力の1つなのでしょう。
 最後にうるわし会の願いを伺いました。
 「中高生にもっと参加してほしい」
 活動を通じて自分に自信を持ち、学校では学べないことを体験して欲しいと山田さんは言います。
 夢中で作業をする匠や活動に参加する高校生や相川さんのように、喜びや楽しみを味わうことのできる場所を未来に残すことが、うるわし会の想いなのでしょう。
 取材の帰り道、朱色のお稲荷さんにお参りをしました。
 「うるわし会の想いが実現し、日向山がみんなの愛される場所になりますように」