企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

特定非営利活動法人 森の自然学校 助川山保全くらぶ

 茨城県日立市。鉱業が栄えた場所として有名なこのまちには、今もなお現役の工場群が中心地に存在している。また、市内には7つの自然公園が点在し、水や緑を楽しむ場として市民に親しまれている。その中の1つに、今回私が取材で訪れた「助川山市民の森」がある。
 この公園は助川山を活用してつくられており、165ヘクタールもの広大な面積をもつ。山頂からは、日立市のまちなみやはるか彼方まで続く太平洋を見渡すことができ、公園内には、ネイチャートレールと呼ばれる自然遊歩道がある。それらは12本に分かれ、渓谷、小川、草原など異なったテーマで楽しめるように出来ており、出くわすものがすべて違う。例えば、沢沿いでは小さな滝やサワガニが、丘ではアカマツ林が見られるといった様子だ。じっくり植物を観察したい人、頂上を目指して山登りをしたい人、あらゆる人が自然を楽しめるような工夫がされている。しかし、この公園が現在の美しい姿で保たれているのも、人と自然の共生を望み、地道な努力をしてきた人々の存在があったからである。

「楽しむ」を第1に

 1991年3月、助川山は大きな山火事の被害にあった。その後、助川山は日立市に買い取られ、1992年から森林自然公園として整備が開始された。それが「助川山市民の森(以下、市民の森)」である。1998年3月に開園された「市民の森」は半年も経過すると多くの遊歩道が倒木や植物の繁茂で歩き難くなり、またゴミが目立つようになった。一方、地元の人たちが公園をきれいに保とうとゴミ拾いなどの清掃作業を始めた。1人…また1人とそうした人々が集い、同年の11月に1つの任意団体が発足した。「森の自然学校 助川山保全くらぶ(以下、くらぶ)」の誕生である。
 くらぶは日立市と連携を取りながら、防災機能を持たせた安全な公園づくりを行っている。モットーは「楽しみながら学び、活動する」こと。1人でも多くの人に自然の楽しさを知ってもらうこと、また森で活動してもらうことを目標に掲げている。
 自然の楽しさといってもメンバーによって考え方はさまざまだ。森を整備すること、植物を観察すること、公園内を散策することなど、自分なりの楽しみ方を持っている。しかし、自然に対する考え方もさまざまであるため、活動する上で対立を引き起こすこともある。お互いが気持よく活動するためには、双方の意見に耳を傾けることが必要不可欠である。活動をまとめる理事長・多田恒雄さんは「そこが難しくもあるがおもしろい」と語っている。
 このくらぶは、いかなる意見を持つ人でも受け入れる。メンバーそれぞれが専門家となり、自分の持てる力を発揮することで、無理なく自分が楽しい活動になるのだ。
抜群のチームワークであっという間に草が刈られていく

「市民の森」を形づくる人々

 くらぶの主な活動は、公園内の森林整備や下草刈りである。ひたすら草を刈る地道な作業であっても、きちんとこなしており、そのおかげで植生や景観が保たれている。
 公園内を歩くと至る所に樹木や野草の解説板が目につく。それらの総数は約130個。10年もの年月をかけて植生を調べ、徐々に数を増やしてきたそうだ。「開花・現存しているものにしか設置しない」というこだわりを持ち、小まめに点検を行っているというから驚きだ。
 「市民に不愉快な思いをさせないこと」。これは、くらぶが活動する上で心がけていることである。そのため、園内ですれ違う人には挨拶を欠かさない。市民との交流は積極的に行っており、野鳥・野草の観察会や子どもたちを対象としたハイキング、親子で参加する巣箱作りなど多岐に渡る。
 また、毎週必ず2回、年間にして120回もパトロールを行い、トイレ・看板の整備やゴミ拾いなど細部にまで気を配る。入口から山頂、山の隅々まで毎回3時間もの時間をかけて丁寧に点検するのだ。「絶対にゴミはないですから!」と力強く言う多田さんは誇らしげで、活動に対する真剣な姿勢を感じた。
くらぶの方が作った樹木や野草の解説板

森と触れ合おう

 現在、くらぶは発足して10年が経つ。「メンバーには自然観察の先生になってもらいたい」と語る多田さん。いくら森に「珍しい植物」があっても、「イノシシの寝た跡」が残っていても、ただそこに森があるだけでは「それが何なのか・どんな意味を持つのか」気付かないことが多い。だからこそ、自然が大好きで、森で活動することの楽しさを知っているメンバーの存在は大きい。彼らは、ちょっとした発見や気づきを、そして知ることへの喜びを教えてくれる。
 野鳥、昆虫、そしてくらぶのメンバーといったさまざまな先生が集う「森の自然学校」。
 ここに来ればきっと、森が楽しい学び舎であるとわかるはずだ。
活動に参加して-執筆担当:吉田歩未(法政大学人間環境学部人間環境学科) 午前8時30分。早朝に訪れる公園はひんやりとした空気に包まれていた。静けさの中、鳥の鳴き声が響き渡ると、何とも心地がよい。大きく息を吸い込むと体中に新鮮な空気が巡り、清々しい気持ちになった。
 朝礼、準備体操の後、早速下草刈りの作業が始まった。私はカマを持ち、慣れない作業に奮闘しながら草を刈った。
 (これ、刈っていいのかな。)
 刈っていい草がどれかわからない。一口に草といっても様々な種類があるのだなと感じた。作業をしていると、草むらの陰にオレンジ色のかわいらしいお花を発見。
 「このお花、きれいですね。」
 「これは、キツネノカミソリっていうのよ。」
 どうやら、葉がカミソリに似ていることからそのように命名されたそうだ。自然の中にいると発見の連続。もっと知りたい、という気持ちが溢れてくる。終始、私の心はワクワクしっぱなしだった。
 作業の後は、お待ちかねの休憩タイム。今日のおやつはバナナ。甘くておいしい。「汗をかいた後のおやつはおいしいだろ」と笑顔いっぱいのくらぶのみなさん。こうして「同じ釜の飯を食べる」ことで、くらぶの結束力も一層強まるのだろう。一緒におやつを頬張っていると、私もくらぶの一員になれたような気がして何だかうれしかった。
 「楽しいから続けられるんだよ」。その言葉の意味を身を持って感じたひと時だった。