企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

赤羽緑地を守る会

 日立市南部に広がる森。高台の団地に囲まれて、そこだけがくぼんだ盆地になっている。それが赤羽緑地、愛称を「自然観察ふれあい公園」という。7.3haの広大な敷地を持つこの公園は、JR常磐線大甕(おおみか)駅近くを通過する電車内からもため池や雑木林の全体を見渡せ、人々の目を楽しませてくれる。
 緑地内に足を踏み入れると、木々に囲まれ、日差しの降り注ぐ心地よい空間が広がっていた。そんな環境を維持しているのが「赤羽緑地を守る会(以下「守る会」)」。今回、会長の宮田信夫さん、副会長の廣瀬泰和さん、会計担当の宇佐美敏雄さん、会員の千葉松雄さんに話をうかがった。

つくり、守り、育てる

 赤羽緑地は、昔は谷地田(谷にある田んぼ)として利用されていたが、耕作する人がいなくなるとアシやツタが生い茂り、やがて不法投棄のゴミ捨て場となってしまい、住民が近付ける状態ではなかった。そこで平成13年9月、市がこの状況を解決するために緑地化計画に乗り出した時、古墳時代の横穴(おうけつ)墓(ぼ)が発見された。市は、単なる緑地化ではなく「人と自然、歴史が共生する自然公園づくり」に計画を変更。計画づくりには、地元のコミュニティ推進会や老人会、小学校などの代表者らが関わり、この時「赤羽緑地をつくる会(以下「つくる会」)」が発足した。そして平成15年4月、「自然観察ふれあい公園」として開園したのを機に「つくる会」は「守る会」へ改名し、現在は、赤羽緑地の整備を任されている。
 「守る会」が最初に取り組んだのは、不法投棄ゴミの処分である。廣瀬さんは「一般ゴミだけではなくて、冷蔵庫やタイヤなどの大きいものもあって大変だった」と当時の苦労を語る。次は、市と連携して通路の整備にあたった。見通しを良くし、歩きやすい歩道を確保して、人が入りやすい緑地にした。その後、池の整備や野鳥を観察できるコーナーや、東屋を設置。こうして、かつての荒れ果てた土地は、野鳥やカブトムシ、ザリガニといった多くの生き物が生息する生命あふれた公園へと生まれ変わったのだ。
 「守る会」は清掃や管理のほか、将来のための植樹活動にも力を注ぐ。千葉さんは「緑地内の木々を育て、その種を使って次の木を育てる。20年から30年という長期の計画だけど、赤羽緑地で生まれ育った木々でいっぱいの森をつくりたい」と笑顔で語った。
ため池や雑木林を有する赤羽緑地

四季を通じて自然を学ぶ

 赤羽緑地では毎年、年間を通してさまざまなイベントがある。夏は池でザリガニ捕り、秋にはトンボ採集、そして冬には野鳥観察会とメニューも豊富だ。
 トンボ採集に参加した親子から話を聞くと「また参加したい。」「身近に安心して自然と触れ合える場所があるのは嬉しい。お年寄りと子どもの交流も滅多にないのでとても良い。」と、好評だ。参加する子どもたちは、自然と触れ合う機会がほとんどない現代っ子である。最初はぎこちなく虫取り網を振り回し、捕まえた虫に触るのも恐る恐るだったが、次第に上手に虫を捕まえるようになり、時間を忘れて夢中で虫を探していた。たった一日自然の中で過ごしただけで、大きく成長した子どもたちの姿を見て、改めて自然の偉大さを実感した。
 赤羽緑地では、希少な動植物も確認されており、専門家からの評価も高い。例えば、環境省の準絶滅危惧種に指定されているミクリ(実栗)という抽水植物が生育している。数年前は、県内では非常に珍しいネキトンボも目撃された。赤羽緑地の魅力は緑だけでなく、そこに存在するあらゆる生き物に直接触れて学べることである。そして現在、地元の小学校によって赤羽緑地は「自然観察授業」の場所としても利用されている。
守る会が主催するトンボ採集に向かう子どもたち

人を思い、自然を思う

 便利な世の中とは裏腹に、自然に触れる機会を持たない子どもたちが増え、高齢者にとって心休まる場も少なくなった。宮田さんは「赤羽緑地は遊び道具も電気もない、ただただ自然の中で自然を楽しみ、そこで出会った人たちとの交流を楽しんでもらう場」と話す。一方、「草をきれいに刈ってしまえば、カルガモなど野鳥の餌がなくなってしまう。手入れをしないと、利用者が歩きにくかったり、危険も生じる」と、整備の難しさを千葉さんは教えてくれた。
 人と自然が共存するには、人にとっても自然にとっても「適度」な整備が必要である。しかし、その「適度」のさじ加減は難しい。守る会の人と自然の調和を大切にした取り組みは、常に温かく優しい思いであふれている。その思いがあったからこそ、赤羽緑地を現在のように人と自然が共存する、賑やかで活気ある場所へと生まれ変わらせることができたのだろう。
活動に参加して-執筆担当:萩尾奈緒香(筑波大学社会・国際学群社会学類) 取材の際、会長を始め会員の皆さんのはつらつとした表情がとても印象的でした。自然を守ることは、環境を良くするだけでなく、人の心も豊かにするのだと皆さんを見てひしひしと伝わってきました。
 トンボ採集のイベントに参加させていただいた時には、珍しい生き物を知ることができるだけでなく、老若男女問わずさまざまな人たちとのコミュニケーションが簡単にでき、赤羽緑地による恵みの大きさに改めて驚かされています。そして、最も心に残っているのはイベントにお孫さんと参加されていた男性の言葉です。「昔は虫取りなんて当たり前の遊びだったのに、今はゲームが当たり前。それでもこうして自然に囲まれて、昔の子どもと同じように虫取りを楽しむ孫を見ると、時代に関係なく自然に触れると誰もが夢中になるんだなと思った」。"地球のために"と言うよりも、まず私たち"人間のために"自然が必要なんだと思います。
 この経験はこれからの私にとって非常に有意義なものとなりました。本当にありがとうございました。
学生レポーターの萩尾