企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

倉沢里山を愛する会

 東京都日野市。ジブリ映画『耳をすませば』の舞台にもなった聖蹟桜ヶ丘駅からミニバスに乗り、降り立ったのは住宅地の中だ。バスを降りなだらかな坂道を少し歩くと、木々の生い茂る倉沢里山が見えてくる。里山の中は心地よい空気に包まれ、それまでとは全く違った豊かな緑の残る風景が広がる。
 倉沢里山には、日野市の公有地や農家の私有地などが混在している。その中の公有緑地や市民農園「アリスの丘ファーム」など、約4haの規模で活動を行っているのが、「倉沢里山を愛する会」だ。
 今回は、会長の峰岸純夫さん(以下、峰岸さん)と、事務局長の田村裕介さん(以下裕介さん)、奥様の田村はる子さん(以下、はる子さん)の3人にお話を伺った。

倉沢の自然を守りぬくために

 倉沢里山を愛する会の活動場所は、はる子さんの生まれ育った倉沢里山である。周辺が開発され宅地化し、当たり前にあった自然がなくなってしまうという時に、改めてその貴重さ・大切さに気がついたという。はる子さんは里山の相続に際し、裕介さんと共に、地主として倉沢里山の自然保全に向けて動き出した。しかし、地主として活動していくには相続税などの問題で限界があり、環境保全や市民活動に積極的な姿勢であった日野市との交渉などを経て、緑豊かな倉沢里山は、公有地として残そうと活動を始めた。
 参考にしたのは、町田市の「図師小野路歴史環境保全地域」で管理活動をする、農家(地主)を中心とした団体。この団体の活動・経緯などから、地主がその気にならなければ何も変わらないことに気づかされ、倉沢里山を愛する会の設立につながった。その際、市民ボランティアの維持管理への協力を含め、市からの請負ではなく、団体主体の対等な立場での市民による保全活動を実現し、その後市と「倉沢里山の緑地管理・運営及び供用に関する日野市とのパートナーシップ協定」を締結した。
   こうした地主という立場の田村さん夫妻の呼びかけによって、行政・地域住民とが一丸となり、森づくり・里山づくりの活動が行われていることは、倉沢里山を愛する会の大きな特徴のひとつである。
集合場所ともなっている、切り株でできたイス

自然循環、地域交流の発信地

 定例活動は、林の下草刈りや落ち葉掃きなどを月1~2回、毎回50人程度で行っている。活動は、自然の保全活動だけではない。間伐や清掃活動の時に出る木材や落ち葉でたい肥を作る。そしてそのたい肥は四季折々の野菜や果物が育つアリスの丘ファーム(以下、ファーム)で利用する。ここでの畑作業が、倉沢里山の自然循環機能を生み出す重要な活動の一つとなっている。
 ファームでの活動を行うには、定例活動に年4回参加という条件がある。会員の中には、畑作業に興味を持って入会した人も少なくないが、定例活動への参加が自然保全への関心へと上手くつながっているようであった。実際、「畑仕事ができると聞いて来てみたけれど、活動通して自然保全に関心を持った」という声もあり、会員の活動に対する意識の高さも印象的であった。
 倉沢里山やファームは、地域のつながりを深める役割も果たしている。緑の中で仲間と一緒に作業することで、それまで関わりのなかった住民間での交流が生まれた。農業が共通の話題となって、活動の合間にも話が絶えず、和気あいあいとしている。様々なつながりを通じて「自然」や「環境」、またそれらに関する活動に対して興味を持つ方々が増え、現在の会員数は120家族ほどにまでなっている。
倒木をどかして安全な森を保つ

愛で守られる里山

 倉沢里山への立ち入りには、会員や体験参加に来た方々を基本とするという原則がある。その理由は、里山の自然を守り維持する「自然保全」を重視しているという部分にあり、この思いを共有できる人であれば、入ることができるのだ。
 設立から10年。家族づれや学生ボランティアによる活動への参加は多少あるが、次の世代を担う30~40代の人材の参加率はまだまだ少ない。「次の世代には、自分たちの思いや活動のコンセプトを受け継いでいって欲しい」と裕介さんは語る。倉沢里山を愛する会の設立10周年を記念して作られた10年分の会報をまとめた冊子には、団体の思い・活動の経緯などが詰まっている。  倉沢里山を「愛する」会。里山やそのなかの動植物を「守る」でも「保護する」だけでなく「愛する」。希少な植物や見ごろを迎える草花には赤いテープの目印をつけるなどの細かな気配りも忘れない。会員の方々の「愛」が熱心な活動につながり、倉沢里山は守られている。こういった姿勢によって、倉沢里山の豊富な自然・動植物は、この先も維持されていくのだろう。
活動に参加して-執筆担当:伊藤綾香(首都大学東京都市教養学部都市教養学科) 活動に参加してまず驚いたのは、活動に参加する会員の人数の多さであった。活気のあるにぎやかな雰囲気であったが、いざ活動が始まると一変、真剣な表情で作業をするみなさんの様子が印象に残った。作業の中では、見つけた植物について話し、質問をするなど、里山の環境や植物・動物についてとても熱心である様子が伝わってきた。お話を聞くと、「毎回楽しみにしている」「やりがいがある」「いい仲間と出会えた」と、みなさん笑顔で答えてくださった。「家が近く」「知り合いを通じて」「農業を教えてもらいたくて」など、倉沢里山を愛する会に入会した理由やきっかけは様々だが、田村さんをはじめとして、会員のみなさんが里山を通じて一つにまとまっているというイメージを持った。単なる自然・里山保全でなく、倉沢里山での活動の目的や経緯、田村さんご夫妻の思いなどが伝わっているからこその雰囲気なのではないだろうか。
写真右、学生レポーターの伊藤