企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

取手市里山・谷津田保全「いもりの里」協議会

 関東鉄道常総線稲戸井駅から車で5~6分。「いもりの里」に着くと、雑木林に囲われた水田、草花が繁茂する野原や斜面林が目の前に広がる。茨城県取手市貝塚にある「いもりの里」が、取手市里山・谷津田保全「いもりの里」協議会(以下、協議会)の拠点となっている。2009年に設立された協議会は、「いもりの里」を生命環境教育の場として、あるいは大学や研究機関のイモリ屋外研究所として、また地域活性化の中心として活用し、様々な活動を行っている。
※谷津田とは、谷地にある水気の多い水田のこと

『出会いは偶然~イモリを核に地元住民・地権者・大学・NPO・一般市民・行政が1つに』

 団体設立のきっかけは、2006年のつくば科学フェスティバル。筑波大学再生生理学研究室の千葉親文准教授がイモリの展示をしたところ、多くの子どもが集まった。その光景に、子ども教育・子育て支援に取り組むNPO法人次世代教育センター(以下、教育センター)前理事長の宮本日出雄さんが興味を持ち、話を聞くことに。千葉准教授は、準絶滅危惧種であり学問的にも有用なアカハライモリを枯渇させないよう、イモリの生息できる環境づくりをしたいとの構想を持っていた。この考えに共感し、子どもたちの学びの場にもなると考えた宮本代表が協力を申し出て、地元住民で区長を務め、現在は協議会の会長でもある蛯原孝夫さんや取手市の協力を仰ぐこととなった。
 取手市は、里山・谷津田が荒廃し、埋め立てや不法投棄の危険に晒されていくなかで、自然環境保全やまちの活性化に取り組みたいとの想いを持っていた。宮本代表らの提案はこうした想いに合致し、取手市や地元住民が地権者とのパイプ役となった。地権者たちも、「昔はイモリが棲んでいたことを思い出して」と協力してくれることとなり、「いもりの里」がつくられることとなった。そして、そこに関わる地元住民・地権者・大学・行政・NPOで、協議会が設立された。荒廃し笹が生い茂っていた耕作放棄地は、協議会のメンバーが1から手を入れ、イモリの棲める水田と親子連れが楽しめるフィールドに姿を変えていった。
 多様な主体が1つになってできた協議会は、組織運営において役割分担がなされている。事務管理や教育活動・イベント開催は協議会が主体となり、筑波大学のイモリ研究グループが環境・生物相調査やイモリ養殖を行い、取手市がアドバイザリーの役割を担う。更に、市民ボランティアがブログを担当し、広報活動やイベント開催の手伝いをする。谷津田・里山の維持管理については共同で行われ、一般参加者の子どもたちや保護者は田んぼづくりや田植えなどに参加することで「谷津田の再生・保全」に貢献している。協議会の活動は、まさしく様々な人たちの協働によって支えられている。
中心部の水田は、いもりの生息地であり、親子連れが楽しむフィールドでもある

『田んぼとイモリと環境と』

 40~50年前には、「いもりの里」周辺にも野生のアカハライモリが生息していたが、農業基盤整備や自然環境の悪化により、徐々に姿を見せなくなった。しかし、イモリは優れた再生能力を持ち、弱い生物ではない。「イモリは強い生物。イモリが棲めなくなったら他の生物も棲めない」と、千葉准教授は言う。
 「いもりの里」では、周辺の里山と中心部にある谷津田がイモリの生育場所となっている。それは、イモリには水のある環境が必要であり、イモリは谷津田に生きる水生生物の代表だからだ。
稲刈りイベントの様子。刈った稲をせっせと運ぶ参加者の皆さん

『子どもたちの学びの場、遊びの場』

 「いもりの里」は子どもたちの学びの場、遊びの場にもなっている。  田植えやどろんこ田んぼ運動会、稲刈りといったイベントに、毎回多くの親子連れが参加している。谷津田はイモリのためだけにある訳ではないようだ。「市民に「いもりの里」で楽しんでもらうことに大きな意味がある」と丸尾文昭助教は言う。
 また、「今の子どもたちには、自然と触れ合う機会、思いっきり外で遊ぶ経験、泥だらけになる経験が不足している。だからこそ、自由気ままに遊びまわれる環境づくりや場所の提供が必要」と事務局の南條なつみさん。座って教わることより、自然の中で体験したことの方が遥かに記憶に残る。だからこそ、自然の中での活動は一番の環境教育にもなるのだという。
 以前は泥を嫌がり抵抗のあった子でも、今では自分から田んぼに飛び込んでいくんだよ」と、「いもりの里」の地権者の1人である猪瀬利夫さんは嬉しそうに言う。
 子どもたちの成長していく姿が、大人たちの楽しみでもあるのだ。

『活動の拡がり』

 協議会には「フレンドクラブ」があり、年会費を払って会員になると1年間のイベントに無料で参加できるようになる。現在の会員数は200人以上。多い時には1回のイベントに100人近い人が参加する。活動が地域に浸透し、「いもりの里」が定着しつつある証拠だろう。またイモリ研究の分野では、国際的に高い評価を得ているという。2011年の「Nature Protocols」に「いもりの里」がアカハライモリ・ストックセンターとして掲載されている。活動の影響はこれにとどまらない。周辺農家も減農薬の環境に優しい農業に取り組むようになったという。会長の蛯原さんは、活動と連動して、昨年から「貝塚・上高井地区農村環境活用推進協議会」を設立し、食と農で地域を活性化させる取り組みを推進している。「イモリの生息できる環境をつくり、環境教育・イモリ研究・地域の活性化に役立てたい」との想いから始まった活動が、取手の地に根付き、今では食や農にまで拡がりを見せている。今後はどのように地域を巻き込み、人の輪を拡げていくのか。協議会の活動から目が離せない。
『活動に参加して―執筆担当:小口翔平(千葉大学園芸学部食料資源経済学科)』 10月20日、澄み渡る青空の下、芋掘りと収穫祭に参加した。たくさんの人で賑わい、子どもたちは始まる前からうずうずしていた。芋掘りは、袋が一杯になるまで取り放題というもの。みんな夢中で、スコップで土をかき分けていた。楽しくて周囲の人との会話も自然と弾む。収穫祭では、地元で取れた野菜を中心に、天ぷら・ピクルス・肉団子スープ・カレーなどをご馳走になる。
 印象的だったのは、大人も子どもも、みんな笑顔で楽しそうだったということ。単に環境を保全する場というだけでなく、「楽しい場」であるからこそ、地域の方に認められているのではないかと思った。そして、地域の人との交流の場、自然とのふれあいの場があることは、素敵なことだと実感した。
丸尾助教授(写真右)に話を伺う、学生レポーターの小口(写真左)