企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

苫東・和みの森運営協議会

 「ひみつきち、きたよー!」空へむけ、大きく伸びをした枝を風にたわませながら、心地よい秋の陽が差し込む白樺の森。木々の葉は仲良くじゃれあい、鳥のさえずりと一緒に子どもたちの声がする。枝木を積んだ荷車をがらがらと引き、木にかけたブランコが揺れる。やわらかい落ち葉の絨毯を歩き、繁る下草をざわざわと掻きわける。北海道苫小牧市にある苫東・和みの森は、自然と人が共に奏でる音で溢れている。森にはたくさんの人が集い、賑わう。太陽に晒された白樺の肌は、木の葉の影や人の姿を映している。

いろいろな森の担い手

 苫小牧市は製紙業等の工業都市として栄えた。一方、その用地内に残された湿地帯の自然も多く、集材場でもあったため古くから森と関わりが深い場所だ。2007年に苫小牧市で催された全国植樹祭で残された31haの跡地は、その後の利用計画が白紙のままであった。その一部を活用し森林を管理しているのが、「苫東・和みの森運営協議会(以下、協議会)」だ。
 協議会は“和みの森”と名付けた跡地を、森と人々の関係で成り立つ里山のような場、コミュニティセンターとすることを目指し、人を集めるために森を活用する。主な土地所有者である北海道と株式会社苫東を含め、市や9つの団体、個人といった多種多様な主体がその運営に携わる。協議会の副会長・上田融さんは、苫小牧市で子どもの自然体験活動を行うNPO法人のスタッフでもある。苫東・和みの森は、そうした異なる立場の存在をひとつに巻き込み、つなぐ場だ。「森という空間では、みなフラットな関係にある。」と上田さんは言う。子どもから大人、車いす利用者から高齢者まで多くの人が和みの森へ気軽に足を踏み入れ、いろいろな人の手により森の保全が進められるような仕組みづくりを行う。

社会につなぐ循環の森

 子どもが好奇心の赴くまま自由に遊ぶうちに、気づいたら森に良いことができてしまう。そうした森との付き合い方を実現するため、協議会が実施するのが『月に1度は森づくり!』だ。工作や育樹など主に7つのプログラムが、季節に合わせて用意されている。
 毎年秋口に行う1泊2日の『子ども森づくりキャンプ』では、小学生を中心に森の中で秘密基地づくりをする。のこぎりの使い方を教わり、材料集めに自分たちの手で枯れ木を切り出し運び、落ちた枝を拾う。宝探しをするように森を歩く子は、時につまずくも「ころんでいいんだよ!」と逞しい。完成した秘密基地は、そこで寝泊まりをしたのち解体して薪にする。こうして集まった薪は、協議会と提携する地元の銭湯でお風呂を沸かすための燃料に用いられる。森の中で汗を流した後、入浴チケットをプレゼントされた子どもたちの表情に笑みがこぼれた。
「月に1度は森づくり!」の活動場所。森の中には手作りの木道が通っている。

森との関わり方は人それぞれ

 足元がおぼつかない幼稚園児や車いす利用者も、苫東・和みの森へやってくる。『和みの森のようちえん』では、幼稚園児と保護者の方が森を散策する。色とりどりの植物が生い茂る森には、野イチゴやハスカップ、多くの種類のキノコが見つかる。頂いた森の恵みはスープの具材にしたり、ジャムづくりなどの調理をして楽しむ。また、森の中には、丸太で作った大きな道が通る。障害がある方たちも気軽に森の中へ入れるように、車椅子利用者自身の手で整備している木道だ。健常者なら腰を痛めてしまうであろう中腰の電気ドリルを使う作業も、車いす利用者は楽々とこなしてしまうという。森を訪れる一人ひとりに適した方法で、苫東・和みの森との付き合いを実現している。

人を結ぶお祭りの森

 「子どもは社会の中で正義、それは森も同じ。」と上田さんは言う。子どもの教育や自然との関係には、どんな立場の人でも同じ目標を持てるということだ。上田さんは、苫東・和みの森での活動を“お祭りの屋台”に例える。森の中では年齢も性別も違えば、いろいろな人がいる。子どもたちは、出店のように並ぶプログラムから好きな遊びを選び、大人と一緒に身体を動かし言葉を交わす。苫東・和みの森では「4つのど」というルールを守る。“どれをやってもいい・どれもやってもいい・どれもやらなくてもいい・どこか行くときは一声かけてね”の4つだ。あくまで子どもの自主性を尊重し仲間と協調することを学び、そうした自然や人との関わり合いの中で感性を磨いていってほしいという。お祭りが地域をつなぐ役割を担うように、自立や支え合いに基づくコミュニティの再生へ向け、森を通してそのきっかけの場づくりに取り組む。
 苫東・和みの森は、森の魅力に気づくための玄関口だ。この場所で多くの人が森というそもそもあるもの、当たり前のものとの付き合い方を考え、その体験を日常へ変えていってほしいと思う。
「子ども森づくりキャンプ」で森の素材と紐で基地を組み立てる子どもたち。 
活動に参加して-執筆担当:中村 翔太郎(早稲田大学)『子ども森づくりキャンプ』に参加させて頂いた。秘密基地をつくった森はとても朗らかで、子どもたちの声があちらこちらから耳に届く。木にかけたブランコを揺らしたり、キノコを探したり、木登りをしたりと、森の中で思い思いの自由な時間を過ごす。遊びの中で、子どもたちは自分たちで考え、工夫する。例えば、切り出した木を運ぶのにも大人なら片手で持ち上げればいいのだが、子どもにとってはそうはいかない。紐を巻きつけて引っ張ってみたり、荷車で運んでみたり、他の人の助けを呼んだりする。上手く行っても行かなくても、試行錯誤する時間を共にするのも楽しい。やっと出来上がったのは、屋根もない吹き抜けの、でも他の誰のものとも違う、彼らだけの秘密基地だった。基地は秘密なので家族が迎えに来る頃には片づけられ、森はまた昨日見た顔をしている。美しい森の中でぐっすりとうたた寝をしていたような、夢見心地の体験をした。
「子ども森づくりキャンプ」終了後、副会長の上田さんにお話しを伺う。