企業CSR・社会貢献活動
花王株式会社
花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。
手賀沼と手賀沼トラスト
- 手賀沼は都心からわずか30kmに位置する、千葉県我孫子市、柏市、そして印西市という3つの自治体の間にある風景豊かな沼だ。手賀沼は平成12年(2000年)までは水の汚れの指標となるCOD値が、実に27年連続で全国湖沼水質ワースト1という記録を残し、「日本一汚い沼」と呼ばれていた。しかし国や自治体、地域住民の人びとによる努力により、現在ではワースト1を脱し、沼を泳ぐ種目が含まれるトライアスロン大会が開かれるほどの水質に改善された。
今年で8年目になる手賀沼トラストの発起人の一人、日暮朝納さんは沼の北側に位置する根戸城址の地主で、代々この土地を守ってきた。しかし柏市と我孫子市の間に位置するこの周辺は都市化が進み、開発の圧力がかかっている。また地権者の高齢化により、荒廃地、遊休農地が増えてきた。日暮さんもこのような問題に悩む一人だった。そこで手賀沼周辺に住む仲間とともに、自らの土地を守り、手賀沼の美しさを保全するために手賀沼トラストを設立した。当初は4~5名で始まった活動だが、知り合いを引き込んでいくうちに会員も増え、現在では120名近くで構成されている。 - 根戸城跡から活動地の畑、手賀沼を望む
地権者にはメリットを、参加者には楽しみを
- 手賀沼トラストの活動力の源は、なんと言ってもそのマンパワーにある。毎月2回行われる定例会には常に15名~20名が訪れ、草刈りや収穫作業などを行っている。定例会とは別に行われる農作業の教室(農教室)には、毎回30人近くの人が参加し、手賀沼トラストの借りる農地で、様々な作物の栽培を行っている。定例会は平日に行われることもあり、定年退職をされた方や主婦が中心となって活動をしているが、農教室は20代から70代までと、幅広い年代が参加をして米やそばを中心に作っている。手賀沼トラスト運営委員の坂巻宗男さんは「そば作りなどを通して、『楽しい』と言われると活動に充実感を感じる」と話している。
このような団体には珍しく、女性が比較的多いところが特徴だ。休憩時間には自分たちが作ったもち米を使っておはぎを作ったり、お茶の用意をしたりするのは、主に女性が率先して行っている。ソバ祭りなど、料理関係のイベントには特に女性がよく集まるという。夫婦で活動に参加するケースも多いようだ。また、運営の面で特徴的なところは、地権者が設立当初から問題意識やニーズを持って積極的に関わっていることだと言える。通常のナショナルトラストのように地権者から買い取るのではなく、信頼できる仲間に自らの土地を活用してもらっているのだ。農業を手伝うことによって地権者にもメリットを得てもらい、そして活動の参加者には楽しみを提供することが、手賀沼トラストのモットーとしているところだそうだ。 - 根戸城跡での活動風景
自分たちの立場を模索する
- 手賀沼トラストは、団体の法人化について深い議論と検討が行われてきた。自らの団体に見合った法人格を模索し、NPO法人、農業生産法人、農事組合法人、有限会社など、多くの事例を検討した。2004年には研究報告を行い、WEB上に公開をした。ただ盲目的に活動するのではなく、方向性を常に反省しながら活動するという姿勢は、他の活動にもよく現れている。定例会と農教室の他に、月に1回、「トラストサロン」というものが開かれる。これは今年から始めた活動で、会員自らが講師を務め、自然環境や農について情報や意見交換を行う。これによって様々な人生経験を持つ会員の能力や意見を引き出し、活動の活性化を目指している。どの活動団体もできていそうで実はなかなかできていない活動である。
- 根戸城跡での活動風景
素晴らしい手賀沼をいつまでも
サイクリングロードや公園が沼を囲み、老若男女を問わず多くの人が訪れ、趣味やレジャー活動を楽しんでいる。沼の南側は田畑も多く、車道からも離れているためにゆったりとした時間が流れている。しかし、開発が進み、田畑が建物に変わり、道路ができれば今のような落ち着いた空間はなくなってしまうだろう。手賀沼の悠久の時間を守るためには、手賀沼トラストのような力強くしなやかな、先を見据えた営みが必要なようだ。