企業CSR・社会貢献活動
花王株式会社
花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。
池の沢に蛍を増やす会
耳をすませば、沢のせせらぎが聞こえる。初夏の夜には蛍が飛び交う。ここは東京都八王子市、新宿から約1時間のところにある館町緑地だ。すぐ近くには団地があり、誰もが蛍がいるとは考え付かないだろう。
「新編武蔵風土記」より、この土地は江戸時代から200年以上にも渡り伝わる地域の人々の大切な谷戸(丘陵地が浸食されて形成した谷状の地形)だったそうだ。現在では、複雑にも民有地、東京都、八王子市の土地が混ざり合い、公園との間に殿入川、そこに注ぎ込むように池の沢がある。この館町緑地で活動しているのが"池の沢に蛍を増やす会"(以下「蛍を増やす会」)の皆さんだ。
一匹、二匹、三匹と…
- 「会社帰りに公園の川に出る蛍を数えるのを楽しみにしていたんだよ。でもそれがいなくなってしまってね。」と、事務局長の谷村伸一さんは私たちに教えてくれた。
蛍を増やす会が発足したのは2000年のことだ。それまでは手入れが必要にもかかわらず、この谷戸は、簡単に3mは越えてしまうアズマネザサなどに一面覆われ、薄暗く立ち入ることの出来ないほど荒れていた。しかし、それでも沢の奥には絶滅したと思われた蛍がまだ生息していることがわかった。「蛍を守ろう」と会長の根本文彦さんの呼びかけに立ち上がったのが周辺住民の人たちだった。 - どんな大木も力を合わせて立ち向かう
蛍が増える環境づくり
- 最初は沢を広げたり、清掃したり、岸辺の草刈りと水路の整備が主だったが、沢にきれいな水を供給し続け、土砂の流入を防ぐ周辺の森の大切さがわかった。
成長過程で過密になってしまった森には、下層植物にも陽の光が届くように間伐が必要だ。「春にはキンラン、ギンラン、夏にはヤマユリやホウチャクソウの群生。それは、一面アズマネザサに覆われていた所を地道に刈っていったことで生えて来たんだよ」と緑地を歩きながら教えていただいた。しかし、「自然保護と掲げて、実際は木を切って自然破壊をしているではないか」といった周辺住民からの誤った苦情も相次いだ。森(自然)を守るには草を刈ったり、樹を伐ったりと人の手が必要なのですと説明しながら蛍を増やす会の皆さんは蛍のために活動を続けた。
蛍にとって最も大切なのが、蛍の幼虫の餌となるカワニナの生息だ。カワニナとは螺旋状に巻いた貝殻と蓋を持つ貝類である。蛍は1年弱かけて成長し、成虫は1~2週間で生涯を終える。
毎回15名ほどの会員が参加する毎月4回の定例活動も、例えば3月から7月は沢の土手には蛍の幼虫や卵が居るため沢の周辺の作業はしない、というように季節によって変化する。蛍やカワニナ、草木の生態に合わせて、草刈りや間伐、植樹、危険木及び倒木の除去に加え、池の補修、沢の整備を行っている。
「カワニナを増やし、あとは人工孵化させた蛍の幼虫を放流すれば、簡単に蛍は増やせる。でも私たちはそうではなく、蛍が自然と増える環境づくり、リスやウサギが出るような生物多様性に富んだ環境作りをしたいんです。」これは、蛍を増やす会の皆さんの共通の想いだ。 - 木を伐るコツを教えてくださる蛍を増やす会のみなさん
毎年蛍を楽しみに…
- 定例活動の他にも、行政と企業、市民団体が連携したグリーンシップアクションや、蛍の観察会も行っている。観察会は大人から子供まで、募集人数の何倍も応募が殺到するほどの人気だ。だが一方で、人手不足が課題となっている。
「蛍の観察会にはたくさんの人が参加してくれるんですが、普段の活動にはなかなか関心を持ってもらえないんですよね。」。沢やコナラ、クヌギなどの森、多くの動植物などが生息する5万㎡におよぶ広大な館町緑地で活動するには、より多くの人の助けを必要としている。「特に小さなお子さんをお持ちの元気なお父さん方に参加してもらいたい、子ども達にも最近では少なくなってしまった自然との関わり、蛍の育つ環境作りを、この館町緑地を通じで体験して欲しい。」と谷村さんはおっしゃった。
誰もが蛍のいる館町緑地など諦めかけていた。しかし、8年前の蛍を増やす会の人たちの熱意により、今では昔のように蛍が飛び交っていた環境に戻りつつある。