企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

福岡グリーンヘルパーの会(団体のウェブサイト

 玄界灘から吹き込む風が、緑の稲穂をさらさらと揺らす。パノラマでは足りないくらいの青空。流れる雲はその場所によって速度を変える。
 楽しそうな笑い声が、絶え間なく海からの強い風に乗って聞こえてくる。今度の野外研修の予定をみなさんで楽しげに話し合っているのだ。
あたりを見渡せば、北には海が望み、一方で西には現代的な九州大学の新キャンパス群が立ちそびえる。
 くるりと一回転するだけで、のどかな自然と背の高い人工物が目に捉えられる。そんなところに、福岡グリーンヘルパーの会(以下FGH)の活動地の一つである元岡育苗ハウスはある。

人と森とが復縁する場所

 FGHは、2000年に第一回福岡グリーンヘルパー養成講座の受講者によって設立された。グリーンヘルパー養成講座とは、NPO法人緑のまちづくり交流協会が主催している環境保全、緑化活動についての知識を学ぶための講座だ。
 この講座の受講者が、何か活動を起こそうということで発足したのが、FGHである。そして、この養成講座の講師でもあった九州大学教授の矢原徹一先生、薛(せつ)孝夫先生の勧めで九州大学の移転先である新伊都キャンパスを活動拠点とすることになった。現在も開発が進む伊都キャンパスでは、将来、都市の住民が日々の暮らしの中で森に親しめるような、従来にないキャンパスづくりを推進している。そのためにできるだけ元の地形を残すように配慮して造成され、生物多様性保全ゾーンという広大な緑地が存在する。FGHはそこでの里山里地の再生、保全活動を主な活動としている。
九州大学新伊都キャンパスを望む

100年後の未来へ、どんぐりの森づくり

 FGHは活動の一環として、切り崩した造成地への植樹も行っているのだが、その際の苗木はなんとみなさんが種から育てたものである。その種も元岡本来の生態系を崩さぬように伊都キャンパス内で採種されている。
 「自分たちで種を拾い、育て、植える。それをやっているのは、日本でもそういない」。代表の内山武文さんはそうおっしゃった。
 あえて、一から苗木作りをしているのには理由がある。地域の遺伝子を保つためである。植物にも人間と同じように遺伝子があり、他地域からの苗木を持ち込めば、そこにない遺伝子が入り込み、持ち込まれた地域の生態系が崩れてしまう可能性があるのだ。
 他の地域からの遺伝子を持ち込まない、持ち込ませない。元岡の遺伝子を継承させていく。そこから始まった育苗活動は始動から5年目を迎え今では1万3千本を越えている。  一方で、ただ森づくりを行っているだけではなく、その森づくりを行う人も育てている。それが、『どんぐりの森をつくろう』というイベントである。小学3、4年生を対象として、どんぐりの実を拾い、育て、植樹することを趣旨としているが、それと同時に、子どもたちに森の楽しさ、面白さを伝え、森づくりを次世代に受け継いでもらおうというものでもある。
 森づくりを次の世代へ。その世代がまた次の世代へ。100年計画の森づくりを行っている。
FGHの元岡育苗ハウスでの作業

人間だって多種多様

 活動に参加した経緯について会員の下条澄子さんは「高度経済成長期を生きた人間として環境汚染の一端を行ってきたような気がして、それの罪滅ぼしの意味もあります」と説明してくださった。
 これまでのバックグラウンドも活動経緯も職業も、人それぞれ。そういった人々が、FGHの方針に賛同して活動を行っている。得意分野だって違う。樹木に関する知識の豊富な会員、「苗爺」と呼ばれるほど苗木に熟知された会員、環境カウンセラーなど、会員同士がそれぞれの得意分野を生かして指導しあっている。会員の豊かな経験と技量。それが強みであり誇りでもあるのだ。
 もうすぐ設立から10年を迎えるFGH。これから、九州大学の本格的な移転が始まっていく。それとともに、活動もより大きく、活発になっていくだろう。
活動に参加して-執筆担当:鈴木 恵子(青山学院大学 文学部心理学科) 「自然は淋しい、しかし、人の手が加わるとあたたかくなる。」

 という宮本常一氏の言葉を、案内いただいた九州大学キャンパス内の、竹が蔓延る活動地の一角を見ながら思い出した。
 人の手が入っていない里山は遠目から見ても、鬱蒼として暗い。しかし、昔は整備された里山であり、美しい景色があったのであろう。
 みなさんが手入れされた区画を見ると、木々や草が明るい緑を茂らせていた。人の手が入るとこれほどまでに、違った景色になるのかと驚いた。
 竹林の生い茂る一帯は人を寄せ付けない迫力があったが、そこは初めて訪れた私でもほっとするような空気があった。
 荒れた里山の風景を生まれ変えさせる暖かい人々の手。人間が作る里山は自然でありながら、人を迎えてくれる。
 FGHの活動はまだまだこれから。
 きっと5年後も、10年後もその先も。違った風景が見られるはず。遠い福岡をもう一度訪れたい理由のひとつになった。
これからのFGHの活動に期待してしまうのは私だけではないのではないだろうか。