企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

新林公園みどりの会

 神奈川県藤沢市。藤沢駅から徒歩15分のところに位置する藤沢市立新林公園(以下「新林公園」)。新林公園は、1957年に都市計画の一環として設置が決定され、1980年に自然豊かな都市公園として開設された。そしてこの公園の美化保全活動に携わる団体が、「新林公園みどりの会」(以下「みどりの会」)である。

生半可な考えで作業しない

 新林公園は公園面積16.2haの内約3/4が森林であり、以前は農家の里山として管理されていたが、高度成長期以降手入れがされないまま公園用地として市に譲渡された。1999年、みどりの会の前身である「新林公園愛護会(2003年、現名称に変更)」が設立され、主として広場の美化活動を開始した。当時、12haの山間部は笹やアオキが密生し、空き缶やガラス瓶が散乱する状態だったという。2001年「荒れ果てた森を市民の皆さんが快適に散策できる自然豊かな森に復活させたい」との思いから、みどりの会の有志9名で新林公園の森林保全活動を目的とする「山のグループ」が編成された。山のグループのメンバーは「自然が好き」「新林の山が好き」という想いから集まった方たちで、現在では56名の会員の内20名が「山のグループ」のメンバー、36名が公園の維持を行う「広場のグループ」のメンバーとなって活動を行っている。
 春は山桜でお花見、夏は蛍の観賞会、そして四季折々の自然観察や散策。みどりの会は新林公園の森を自然が楽しめる場所にしようと、毎週水曜日と土曜日、景観と植生の調和を考えながら手入れを続けている。活動内容は、絶滅危惧種にも指定されている希少植物や植生の保護、笹刈り、下草刈り、植樹、倒木や枯木の処理、アオキなど繁殖力の強い樹木の間伐、ハイキングコースの補修などと幅広い。 山のグループの皆さんは平均年齢70歳前後にも関わらず、意欲的に森林保全の勉強を続けている。「森林の手入れは思いつきでなく、いろいろな知識や知見を身に付け、経験を重ね、現場をよく観察しながら適切に行うことが大切。生半可な考えで作業しない。」そう話してくださったのは代表の中島満雄さんだ。「刈りとってよいかどうか分からないものはメンバーの中の植物に詳しい人に聞く」との発言から山のグループの皆さんの森林保全に対する真摯な姿勢を感じた。
山道補修

森を支える熱い想い

 「会員が高齢化しているので、定年退職された方が入会されるのを期待しているのですが実際は思うようにいきません。趣味や価値観が多様化しているのでしょう、森林保全のような地味なボランティア活動に参加される方は残念ですが減ってきています」中島さんはこう話された。現在の会員に不足はないが、次の世代に活動を引き継いでいく上で新しい会員の補充は欠かせないという。現在、会員募集のチラシを作り、藤沢市市民活動推進センターや各地域の公民館に置いてもらったり、コミュニティ紙に会員の募集記事を掲載したりしているが反応は薄い。「1年に2,3名入会すれば良い方です」という発言に驚かされた。藤沢市市民活動推進センターに登録している610余の市民活動団体、その活動はボランティアから趣味まで多岐に渡っている。「社会貢献活動にもっと目を向けていただけるような支援策を講じてもらえればありがたい」と話される様子から、森とみどりの会に対する熱い思いが伝わってきた。おそらく、会員確保の問題は解決に時間を要するだろう。「活動をやめたら森はまた元の荒れた姿に戻ってしまう、活動の継続が今後の課題です」と言う会員の思いは複雑だ。しかし「作業は大変だが、そこには大きなやり甲斐がある」・・・その言葉が深く印象に残った。

市民の皆さんが笑顔で挨拶されるのが一番の励みに

 「以前は安心して歩ける状態じゃなかったのよ。みなさんが森をきれいにしてくれるから、こうやって毎週ハイキングに来られるんです。本当にありがとう。」ハイキングにいらっしゃった方の言葉に、山のグループの皆さんの顔がほころんだ。
 この公園には山歩きされる方、小さなお子さん連れ、犬の散歩をされる方、幼稚園児や小中学生、老夫婦など大勢の人たちが訪れる。山道を登る途中ですれ違った多くの人が「こんにちは」と笑顔で挨拶をしてくれた。
 「ここを訪れる人たちから、森が明るくなって嬉しいと感謝されるのが一番の励みになる。(みどりの)会の活動を自負しているが、それをHPに載せて誰かに褒めてもらおうとは思わない。小さなお子さんや年を召された方たちが森を楽しんで歩いている姿を見るのがなにより嬉しい」というのは山のグループの皆さんに共通する思いである。山のグループ内で「あなたはこれをやって」などという作業指示はほとんど必要ない。謙虚な気持ちで自然と向き合いながら必要最小限の手入れをし、市民に親しんでもらえる森づくりを行う。山のグループの皆さんが胸に秘めた思いは、みんな同じである。
みはらし台からの景色
活動に参加して-執筆担当:原恵美(東京女子大学文理学部史学科) 8月下旬のとある日、みどりの会の方たちはひたすら笹を刈っていた。新林公園にはクヌギをはじめ、コナラやヤマザクラ、ミズキ、ムクノキなど多種多様な樹木や草花が自生している。しかしこの時期に行う作業は主に笹を刈ることである。活動開始後2年以上にわたって行ったアズマネザサの刈り取り作業は、指の太さほどもある笹が密生していて本当にきつかったという。今は、8年余にわたる地道な森林保全活動が実を結んで種々の草花が増え、植樹した苗木や実生の幼木も生長し、魅力溢れる森林景観を楽しむことができるようになった。そして、かつて背丈2~3mの笹で目隠しされていた見晴らし台では、今、銀色に輝く相模湾や晴れた日には富士山や丹沢の山波を見ながら吹き過ぎる風の心地良さを感じることができる。会員の方と森を散策中希少植物を保護する取り組みに出逢ったことで、私は「むやみに木を切ったり草を刈ったりしている訳ではありません。かけがえのない貴重な新林の自然を次の世代に残したいからです」と話された言葉に納得した。活動に参加した当日、メンバーは「他の草花は刈らないように、刈っていいのは笹だけ」という了解のもとに、黙々と作業を進めていた。どこまで刈るのがいいか、判断はすべて自ら行う。例え刈り過ぎても誰も非難めいたことは言わない。それがこの会ならではのルールだ。そしてこの居心地の良さこそみどりの会の大きな魅力の一つなのだと感じた。