企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

上郷森の会

 舞台は横浜市栄区。みなとみらい21のイメージが強い同市だが、栄区には開発を逃れた緑地が多く存在する。内、4ヶ所は市によって「市民の森」に指定されており、今回訪れた「上郷(かみごう)市民の森」もその1つだ。住宅地に隣接した4.5haのこの森はお椀を伏せたような形をしていて、すぐ近くを流れるのは栄区のシンボル・いたち川。頂上広場にある展望台からは富士箱根及び丹沢が見渡せ、中でも太陽が富士山の真上に沈むダイヤモンド富士が絶景だという。
 そんな上郷市民の森を管理しているのが、ボランティア団体「上郷(かみごう)森の会」である。色々な活動で地域に貢献する、小規模だが実現力ある森づくり団体。副代表の柴田猛さん(以下、柴田さん)と会員の方々への取材、また活動中にお聞きした代表の木村賀数さん(以下、木村さん)のお話しをもとに、その実態を紹介したい。

熱い思い、そしてヴィジョン

 上郷市民の森が誕生した1972年、地主から森を借り市民が利用できるよう設備を整えた横浜市は、地主に「市民の森愛護会」を作るよう依頼した。しかし、森は荒廃した。市が同会に任せたのは年数回の除草だったため、枯れ木や蔓(つる)、成長した樹木が陰湿な森にしたのだ。
 副代表の柴田さんによると、森づくりには熱い思いを持ったリーダーが不可欠。代表の木村さんの熱意は、会員に「(森が好きな木村さんの影響で)森を好きにならされた」と言わしめるほどである。上郷森の会が2002年に結成されたのは、散歩で遭遇した犬友達の地主に、森を整備したいと木村さんが提案したことがきっかけだ。自治会の回覧板で集まったメンバーは友人含め15人。発足までがスムーズだったのも木村さんの人柄ゆえかも知れない。
 柴田さんは森づくりに必要なものとしてもう1つ、ヴィジョンを挙げる。2003年に横浜市に承認されて以来、上郷森の会は森を明るくすることを目標に、間伐や剪定、蔓などの除去を行ってきた。また、クヌギ、モミジなどを中心とした植樹は、2004年の行政とのゾーニング1)に基づいて進めている。目標やゾーニングといった中長期的ヴィジョンの存在が、確かな成果につながるのだ。豪快な伐採、ヤマユリ保護柵や野草園を設けるなど野草を大切にする繊細さ。ここでの森づくりの随所に情熱やヴィジョンが表れている気がした。
植樹地での下草刈り

バラエティに富む「長屋」の人達

 60代、70代が多いという会員は現在28名で、その様々なキャリアは何かの折に役立つ。
顕著な例が、上郷森の会が2005年に始めた「森の工房よこはま・さかえ」。ここでは森づくりで生じた間伐材等を用い、オリジナルな「生活便利品」や工芸品などを製作している。この工房の運営を可能にしたのが、栄区の助成制度2)と、1級建築士や理系の教師、アイディアマンといった会員の存在なのだ。工房の作品はイベントや福祉施設などで大活躍である。
 柴田さんに活動で辛かったことを尋ねると「記憶にない」と驚きの返答。他の会員も「幼少の気持ちに戻ってやっている」「良いボランティア団体に入ることができた」と、活動を楽しんでいるようだ。やりがいは元より、強制しない雰囲気や打ち上げ、研修旅行などのイベントがその秘訣だろうか。柴田さんが「長屋のスタイル」と表現する、地域の仲間との飲みニケ……コミュニケーションの場が、ここにはある。
色んなアイディアが詰まった工房の作品たち

森は憩いの場所 ―地域に根を張った森づくり―

 木村さんに一番思い入れのある活動を伺うと、答えはアジサイロード。森の住宅地に面した部分に100本のアジサイを植えるという初年度の大事業で、その後の植樹で200本を超えたアジサイが斜面を賑わす様は、今や地元の名物だ。
 上郷市民の森を、地域の人々の憩いの場所に。アジサイロードの原点にはそんな思いがある。森に親しんでもらおう、「顔の見える街」にしていこうと、いたち川沿いのツツジ園づくりや区民まつりなど、上郷森の会は多くのイベントに関わってきた。中でも工作指導など、後継者である子供達との交流には特に力を入れている。
 ゾーニングにのっとった植樹はほぼ完了した。活動が行政から表彰され、2008年にはテレビの取材も受けた。地域に自然との共生の大切さを広めるため、地域の絆を深めるため、活動を続ける上郷森の会。次は何をして地域の人々を楽しませてくれるのだろうか。

1)ゾーニング:ある土地を管理・開発するための基本計画で、土地を区分けすること。森づくりにおいては、植物の種類や土地の用途ごとにゾーンの名称を設定する。
2) 栄区の助成制度:「栄区学びあいと支えあいのまちづくり推進事業」のこと。
活動に参加して-執筆担当:小松美由紀(東京農工大学農学部地域生態システム学科) ザクザク、バチンバチン。始めは手元がおぼつかなかったが、慣れると刈り込みバサミを使うのが楽しくなってきた。ササを一掃し蔓(つる)を除き、やっと姿を現す落葉樹達。植樹して以来、皆さんは何度こうして草刈りをしたことか。手塩にかけた彼ら(?)の成長を実感した時の、喜びの大きさが分かる気がした。
 作業が終わった後、会の方がカラスウリの実を見つけてきた。幼い頃それで友人と工作したことが脳裏に浮かぶ。私が農学部を選び今ここで活動しているのは、そうした自然体験に由来するのだろうか。上郷森の会が盛んに行う子供との交流イベントは必ず将来実を結ぼう。
 森づくり=植生管理だと考えていた私は今回取材して、町づくりの意味合いが強い森づくりに衝撃を受けた。そして軽快な動きで生き生きと作業する皆さんや、工房のアイディア溢れる温かい作品から良い刺激をもらった。上郷森の会を担当できたことを嬉しく思うと同時に、横浜市民として会の活動を誇りに思う。森の移り変わりやダイヤモンド富士を見に、またフラリと訪れたい。
学生レポーターの小松(左)と木村さん(中央)