企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

逗子名越緑地里山の会

 神奈川県逗子(ずし)市北西部。逗子駅から住宅街を抜け徒歩20分、鎌倉市との境に名越(なごえ)谷戸(やと)(*1)。斜面林と平地、ため池が一体となって残り、逗子市で唯一水田が残る場所でもある。市街地で見かけることが少なくなった、カワセミなどの野鳥やホタル、カブトムシなど多様な動植物が生息している。逗子名越緑地里山の会(以下、里山の会)は、この名越緑地を拠点として活動している。

*1 谷戸 丘陵地が浸食されて、形成された谷状の地形のこと。

逗子市唯一の谷戸を活用したい

 約8haの名越谷戸は、過去に3度も大規模な開発計画が持ち上がりながらも、逗子市民の根気強い保護運動により開発を免れた場所である。しかし、長年に渡り多くの産業廃棄物が山積し、竹林や田園も放置されていた。そんな中、2002年に逗子市の環境計画作成のために市民委員が集まり、エネルギー問題・ゴミ問題・自然問題の3つの部会に分かれて環境計画を立てた。紙の上で計画を立てるだけで満足してはいけないと、実行部隊として「ずしし環境会議 まちなみと緑の創造部会」は田越川の魚観察会などを始めた。ちょうどその頃に名越谷戸が市に寄付されたという情報が市民から部会に寄せられ、なんとかこの谷戸を活用したいと保全活動を始めたのをきっかけに、逗子のニュータウンの公園整備をしていたボランティア団体「一歩の会(現:虹の会)」や三浦半島の竹林を整備している「三浦竹友の会」などが参加した。その後、逗子市のアダプト・プログラム制度(*2)のもと、2005年に「アダプト(里親)契約」を結び、同時にそれまで活動を続けていたそれぞれの会が所属する里山の会を立ち上げた。逗子の里山原風景 や生態系の復元とその保全を目指し、活動を行っている。

*2 アダプト・プログラム制度 公園や緑地など、公共の場を「養子」にみたて、市民がボランティアとして里親になり「養子」である公園や緑地の美化・維持管理を自主的・主体的に行い、市がこれを支援する制度
地元の小学生の課外授業で使われている、谷戸の水田

地元の人に親しんでもらうための里山

 最近では、活動報告会や口コミの広がりで子ども連れの若い母親が活動に参加することが増えてきたり、地元の豆腐屋さんに協力してもらい、名越谷戸でとれた大豆を使用した味噌作り体験教室を市内の小学校で実施したりするなど、里山の会の活動が少しずつ地元に広がってきている。
 先にも述べたように、里山の会は、田畑を担当する虹の会や竹林を担当する三浦竹友の会、湿地・野原の管理を担当するまちなみと緑の創造部会、さらに里山全体のトンボや蝶会などの自然環境の状況を継続的に調査・監視している自然調査会などに分かれている。
 初めからやりたいことが明確で、特定の会に入会する会員もいれば、どこの会にも属さない個人会員や、体験的に参加してからやりたいことを決めて会に入会する方法もある。いろいろな参加形態があることも広がりに一役かっているようだ。
 また、子どもたちの学習の場として活用してもらうために、田植え・稲刈り体験やイモ掘り体験、昆虫観察会、食育イベントなどの活動も積極的に行っている。里山の会は、活動を通して、子どものころから自然や生き物に親しむことの楽しさや大切さを都会の子供たちに伝えている。普段、都会暮らしで自然と触れ合う機会の少ない子どもたちが目を輝かせて自然と触れ合っているのを見ると嬉しくなるという。取材の日にも、子供たちが虫取り網を片手にトンボやバッタを嬉しそうに追いかけていた。
先生が見せてくれる昆虫に興味津々の子どもたち

仲間と、長く続ける。

 名越谷戸は、逗子の自然の宝庫である。夏の夜にはホタルが飛び交い、秋には綺麗な紅葉が見られる。都会に居ることを忘れてしまいそうな程静かで、自然に溢れた森である。「市民に自然と触れ合ってもらうために、多くの人に名越谷戸を訪れてもらいたいが、あまり多くの人が訪れすぎると原風景の保持が難しくなってしまう。そのバランスをとるのが難しい」と会長の飯河正さん(以下、飯河さん)は何度も言っていた。今はまだ、学校の課外授業で使われたり、近所の人が散歩に来たりする場所であるが、今後は外来種の制御や湿地整備を継続して本来の生態系の復元を目指すと同時に、新たな試みとして古道を利用したハイキングコースの整備も目指している。
 住宅地に囲まれた小さな緑地の中に、湧水、溜池、田んぼ、竹林、畑などが揃っている逗子唯一の谷戸。その中で、里山の会のメンバーや地元の人たちが、名越谷戸を市民にとってより良い場所にするために活動を続けている。逗子市からの協力も大きく、市の緑政課から職員が手伝いに来てくれることもある。「市のアダプトプログラムとして、里山の会の活動をしているというよりはむしろ仲間のようなもの」と飯河さん。
 メンバーそれぞれがやりたいことをやっていて、そのやりたいことを曲げたくないという気持ちも強い。ボランティアとは平等な関係であるが、考え方とやり方が違うため議論になることもある。そうした中でも「長く続けることが大事」だと飯河さんは言う。同じゴールを目指す者同士、しっかりと話し合い、活動を続けていけば、お互いに相手のことをより理解できたり、妥協点が見つかったりするのだろう。
活動に参加して-執筆担当:宮武真優(横浜国立大学経営学部経営システム科学科) 大学入学を機に、田舎から神奈川に出てきて一人暮らしを始めた。憧れの都会暮らしは、とても便利で楽しいものであった。それと同時に、住んでいる時には気付かなかった地元の自然の大切さに気付かされた。都会の子供たちは家の前の田んぼに入って遊んで祖父母に怒られ、放課後は虫取りをして遊ぶ機会が少ないのではないだろうか。そんな寂しさを感じていた折に、今回の活動に参加させて頂いた。
 名越谷戸は都会のすぐ近くにありながら、素晴らしい自然の宝庫でそこで遊ぶ子供たちを見ているだけで懐かしい気持ちになれた。一緒に昆虫観察会に参加した子供たちは、田舎育ちの私より昆虫に詳しく、捕まえた虫を自慢げに見せてくれた。これからの時代を担う子供たちにこそ、このように自然と触れ合う経験をもっとして欲しい、その為に里山の会のような活動を私たちも知り、参加していくべきだと強く感じた。
 このような貴重な経験をさせてくださった飯河様はじめ里山の会の皆様、日本NPOセンターの方々に深く感謝したい。
写真右、学生レポーターの宮武