企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

ネイチャークラブ東海

 名古屋駅から電車とリニアモーターカーを乗り継いで約40分、そこから車に乗ること約10分。都市部からは少し離れ、豊かな自然が広がり、様々な生き物が生息する「海上の森(かいしょのもり)」では、子どもたちが元気に遊び回る。ロープを使って斜面を登ったり、自分たちだけの秘密基地を作ったり…。かつて人が入れないほど鬱蒼としていたこの森を、「ネイチャークラブ東海」は、子どもたちが自然の中で楽しく学べるように整備し、本格的な環境教育を行なってきた。代表の篠田陽作さんは、若い頃イギリスで五年間の植物学を修了してガーデンマイスターの資格を取得し、帰国後はテレビ局や大手広告会社に長く勤務したという大物だ。そんな篠田さんをリーダーとするネイチャークラブ東海は、海上の森にとどまらず、様々な拠点で環境教育を行なっている。

三つ子の魂百まで

 「全国へ行ってもこんなに変わった団体は他にないですよ」。篠田さんはそう得意気に話す。市役所・文部科学省・農林水産省等から様々な委託事業を受けるネイチャークラブ東海の活動は多岐に渡る。その全てを貫く理念は「価値観を変える環境教育を行う」ことだ。小学生の川遊びでの環境教育では、川から上がる時に必ずゴミを持ってこさせる。集まったゴミについて篠田さんは子どもたちに問う。「このゴミは、誰が捨てたと思う。コーヒーの缶は大人かもしれないけど、ジュースの缶は誰が捨てたのかな」。自分たちでゴミを拾った子どもたちは、それからはゴミを捨てなくなるという。「子どものうちに気づかせることが我々の目的です。三つ子の魂百までと言うでしょう。ゴミを捨てちゃいけないことは、誰でも知っていますよね。でも現にゴミが落ちている。知っているだけではだめだということです。ゴミを捨てようとした瞬間に、ゴミを捨てられないハートがないと。小さい時から、そうじゃないよって言っていけば、簡単なことなんです。環境学習は、知識ではない。感性です。」単なる清掃活動に終わらず、自然から学ばせることに特化し、環境に対する価値観そのものから変えていく。ネイチャークラブ東海の環境教育を小学生の時に受けた人や、活動に携わった多くの人々が、今では日本にとどまらずアフリカなど世界の様々な場所で環境活動を行なっているそうだ。
活動場所をビニールひもで区切り、計画的に作業は行われていく。急な斜面もなんのその

「カンアオイが生えてきたね!」

 ネイチャークラブ東海が行う年間14種類以上の活動は、その多くが行政によって委託されたもので、どれも知識や経験が必要なものだ。そのため、活動を支えるスタッフの専門性が高いのもネイチャークラブ東海の特徴といえよう。「愛・地球博」の会場跡地に整備された「モリコロパーク」で行われる「森づくり隊」では、ガーデンマイスターの資格を持つ篠田さんの計画に沿って里山保全活動が行われている。ひとたび活動が始まると、メンバーのみなさんは慣れた手つきでてきぱきと作業を進めていく。「カンアオイが生えてきたね。これはギフチョウが卵を産みに来るからね、こうやって抜かないでおくの」。「この木は切ってしまっていいよ。地面に日が当たるようにね」。メンバーには他の環境活動にも関わる人が多く、森の生態系にも詳しいメンバーが揃っている。「木を切ってしまうことは、自然破壊にはならないんだよね。それをきちんと伝えていかなければ」と篠田さんは語る。
環境学習は知識ではなく感性。実際に森の中で丘上がりをしてみると…おおー、高い!

プロにも勝る熱いアマチュア

 7つの大学で環境に関する講義を行い、その他でも一年半でのべ300回以上講演を行ったこともあるという篠田さん。篠田さんを始め、働きながら本格的な活動に携わるメンバーのみなさんを突き動かすものとは何なのだろうか。「このままでは日本はダメだっていう思いですね。批判するんじゃなくて、やれる自分たちがやれることをやるんです」。20年前、活動を始めた時には見向きもされなかった環境教育が、今では必要とされてきている。配慮しなければならなくなったほど環境が悪くなったということだ。「あとは、やりたいことをやれるっていうのもあります。プロとしてやると、給料のために自分の主義に合わないことをやらなきゃいけないこともある。だけどうちはアマチュアでやっているから、自分のやりたくないことはやらないんです」。任意団体という身軽さを利用して、ネイチャークラブ東海は多岐にわたる数多くの環境活動に取り組み続けている。

世界基準の環境教育を

 次世代への環境教育を続けるネイチャークラブ東海の今後の目標は、自然学校を開くことだ。「ヨーロッパでもアメリカでも、子どもたちが夏休みにサマーキャンプに行くことは定番なんです。ヨーロッパでは、環境教育が義務教育の中に組み込まれているので、その点では日本の環境教育は遅れています。一ヶ月間サマーキャンプに行くだけで、自然の中での体験が生活や価値観の基盤になる。日帰りでは、何も体験させられない。夜も昼もそこにいないと。自然の中で、一週間、一ヶ月間、冬でも夏でも子どもたちに自然を体験させることができるよう、自然学校をどこかに作るというのが皆の希望です」。
 常に世界や一歩先の時代を見据え、環境教育活動を引っ張ってきたネイチャークラブ東海。その教育を受けた人々や子どもたちが、今度は未来の環境活動の 最前線で活躍するだろう。
活動に参加して-執筆担当:小島桜子(東京外国語大学外国語学部日本課程日本語専攻) 20年前には見向きもされなかった環境教育に目を向け、常に精力的に携わってきた篠田さん。イギリスで本格的 に学んだガーデンマイスターの知識が生かされているのは、普段の活動だけではない。テレビ局や広告会社で培った資料の「魅せ方」を生かして作った自然学習パンフレットには、子どもを飽きさせない工夫が盛りだくさんだ。そのパンフレットを拝見した時には、歩んできた人生のすべてを活動に生かしている方だと感じた。さらに活動から帰ってきてから知って驚いたことだが、なんと篠田さんは植物事典の執 筆にも携わっていた。
 そんな篠田さんに取材をしている時には、人を惹きつけ、引っ張っていくカリスマ性のようなものを感じた。取材日に愛・地球博記念公園で行われていた 「人と自然の共生国際フォーラム」では、そこにいる誰もが「先生」と親しげに呼びかけた。
 知識ではなく感性を大切にすること、価値観の基盤を作ること、先を見据えること、そして熱い思いを絶やさないこと。どれも納得できることばかりで、私も篠田さんやネイチャークラブ東海にもう少し早く出会っていたら環境活動に携わるようになっていたかもしれない。取材をしていくうちに、環境に対する価値観が自分の中でも変わっていくのを感じた貴重な体験だった。篠田 さん、ネイチャークラブ東海の皆さん、本当にありがとうございました。
写真左、学生レポーターの小島。右の代表の篠田さんは、森のことをなんでも知っている大先生だ