企業CSR・社会貢献活動
花王株式会社
花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。
山田の里グリーンクラブ
そこは、里山というよりは、一つの村という印象を受けた。
かつて棚田だった場所を利用した古代米の育成。トウモロコシやトマトなど様々な作物の栽培。またそれらの作物を野生動物から守るための手作りの電流柵。丁寧に植樹された斜面林。緑豊かな原生林の裾野に広がるその場所からは、長年の工夫と日々の細やかな手入れが感じられた。
今回はそんな里山の整備活動を行っている「山田の里グリーンクラブ(以下、グリーンクラブ」の代表を務める西本紘二さん(以下西本さん)にお話を聞いた。
「新しいことを始めたい」
- グリーンクラブは、神戸市にある「みのたにグリーンスポーツホテル(以下、ホテル)」内の山林の一画で活動を行う、来年で10周年を迎える団体だ。活動内容は、植林を始めとする里山の整備活動や作物の栽培、昆虫の育成や小学生への環境学習など幅広い。
代表の西本さんは勤めていた会社を定年退職後、「全く新しいことを始めたい」と、兵庫県が主催する「ふるさとひょうご創生塾」でコミュニティ作りを学び始めた。創生塾を卒業後、元々自然が好きだったこともあり、里山の文化を考える活動を8人の有志でスタート。「里山を守るべき」という市民調査の声に後押しされて、保全活動を始めることにした。しかし活動地域にしていた旧山田村は村有林が多くを占め、活動を行える里山を求めて地権者と交渉を行う日々が続いた。
何人かの地権者と粘り強く交渉を重ねた結果、ホテルが所有する里山を紹介してもらうことになり、2003年の11月に本格的な活動を始めることになった。発足当初8人だったメンバーも、今では40人が在籍する団体へと成長していった。「会社人から社会人になれたよ」と西本さんはこれまでの活動をそう振り返った。 - 中学生が制作した机
里山を環境学習の場へ
- 「このドングリはどの木の実だと思う?」と西本さんは慣れた口調で活動場所の山を案内してくれた。グリーンクラブでは毎年300人近い小学生を相手に環境学習を行っている。山の案内や木工教室、近隣の小学校への植物図鑑の配布などが主な活動だ。
この活動のきっかけになったのは、県が行う小学生の地元企業へのインターンシップ事業だった。この事業が進むなかで、対象となる地元の小学生の数が受け入れ先の企業の数を大きく上回ってしまったために、グリーンクラブは里山をインターンシップの場として提供した。
「子ども達には山に入ってもらいたいんだ」と話す西本さんの思いは、環境学習に使われる植物図鑑にも表れている。この図鑑は地元の樹木・キノコ・山野草を愛する方々に協力してもらい、子ども達のために作成したものだった。
取材中、西本さんは何度か図鑑を開き、里山の植生について話してくれた。西本さんが指差す先には、写真と見間違えるほど正確なデッサンで描かれた植物の葉や実の絵が並んでいる。写真より違いがわかりやすく、どのページも無償で配られているものとは思えないほどの完成度だ。「子ども達には自然に親しんでほしい」、この図鑑はそんな思いが伝わってくる一冊に仕上がっていた。
西本さんは、この図鑑を近隣の小学校に無償提供し、教材として活用してもらっている。兵庫県版絶滅危惧種に記載され、旧山田村にしか自生していない珍しい「ヘラノキ」を、小学3年生から自宅の裏山(旧山田村)に自生しているとの情報を頂いたこともあった。西本さんの環境学習に対する思いが生んだ出来事だった。 - 図鑑を片手に語る西本さん
10周年に向けて
来年で活動10周年を迎えるグリーンクラブは現在大きな転機を迎えている。
当初からの活動拠点だったホテルが、事業仕分けの影響で、2012年9月をもって閉館してしまうのだ。多くの小学生が参加する活動を運営するためには、トイレや水場などの設備が欠かせない。今まではホテルの好意で使用できたものが使えず、活動も大きく制限されることになる。
しかし「今はまだ交渉中だからね。場所が変わっても子ども達への環境学習は続けていきたいよ」と語る西本さんからは、活動に対する前向きさを強く感じた。
今ではグリーンクラブの影響力はホテル内だけに留まらない。近隣の小学生や地域の団体、市民の方々など多くの人を巻き込んだ活動になっている。今後、活動環境が変わったとしても、地域に根付いた活動の拡がりが、山田の里グリーンクラブを、そして神戸市の里山を支え続けていくだろう。