企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

豊能町コピスクラブ

 大阪府豊能町光風台(とよのちょうこうふうだい)。ここは、大阪府、兵庫県、京都府のちょうど県境に位置する。新大阪から電車を乗り継ぐこと1時間半。山を切り崩してできた斜面に広がる集合住宅地からほど近い森の中で、豊能町コピスクラブ(以下、コピスクラブ)は活動している。

荒れた森から光の差す森へ

 コピスクラブの活動場所は、町内の体育施設の裏側に広がる妙見山の一角にある。光の差し込む明るい林は、尾根から谷へ風が吹き抜ける。林道を少し奥へ進むと、会員お手製の木でできたたくさんの動物のオブジェが待ち構えている。今では当たり前のように通れるこの林道も、以前は倒木や下草で荒れ放題だったところを整備し、会員が一から作り上げたものだ。コピスクラブは、今年で発足8年を迎える。会長である近藤徹さんが、管理されないまま放置されていた町有林の存在を知り、かつてから行われていた豊能町の親木講座の修了生を中心に設立した。最初の活動は林内に大量に放棄されていたごみの片づけから始まった。現在は定年退職者や主婦など主に60~70代の約15人の会員が、毎月2回の林床整備や木工細工づくりの活動を行っている。
会員が作った、枝でできたヘビのオブジェ

生き甲斐の追求

 豊能町は、40年ほど前から開発が進んで出来た新興住宅地である。会員の元々の出身地は、北陸から四国まで様々だ。豊能町の森で幼いころに遊んだことはなく、団体が設立される前から現在の活動場所の森に特別な思い入れがあったわけでもないという。しかし、会員はこの森を大切に守り使い続ける。「ここに来ると落ち着くんです。大好きな草花や木々に囲まれて、何の気兼ねをすることなくゆっくりできるのが幸せです」と、会員の一人である尾崎絹子さん。コピスクラブの会則の一つに、生き甲斐の追求という項目がある。単に管理や整備を目的とするのでなく、その活動を通して自らの生き甲斐や楽しみを見出し、深めてゆく。きれいな花が咲けば種類を調べて写真に収める。間伐材を利用してテーブルやベンチをつくる。育てたキノコをみんなで食し、木の芽や果実が採れればジャムやお酒にして嗜む。楽しみ方は自由で多種多様だ。さらに、コピスクラブの活動は森の中だけにとどまらない。林床整備が終われば、会員は余った木の枝を小脇に抱えて帰路につく。自宅で木材を加工して食器などを作るのだという。そうした作品は、年に一度開かれる地域の福祉関係のバザーで販売され、毎年殆ど売り切れてしまうほどの人気商品だ。
 近藤さんにコピスクラブを一言で表現すると何かと尋ねた。「アーボリストです」。“arborist”-種から老木になるまでの生長を見守る仕事、森林を管理・利用し楽しむ者-。生き甲斐として森を訪れ、関わることを楽しみ、活動に精を出す会員の姿を表現するぴったりの言葉だ。

手入れとは自然遷移を中断すること

 コピスクラブの森は、手入れや間伐により、活動開始当初と比べて林内にたくさんの光が届くようになった。その結果、原生するコバノミツバツツジが花を咲かせるようになり、会員たちの笑顔の源となっている。「森林は放置すれば自然遷移の法則に従って自ずと変化していきます。人が、森林をどうするかという目的をもって手を入れ、自然遷移を中断するのが手入れです」と、近藤さんは言う。団体の名前に使われている“コピス”は雑木林を意味し、人が手を入れ利用することによって生態系のつりあいがとれている森林や地域のことを指す。一方、人の手が介在しないところでは、コケの生じた土地から草地、林へと土地の様子が自然の遷移によって変化していく。遷移を途中で選択的に断ち切り、目的に沿って植生を誘導していくことが、その土地や森の魅力を更に引き出すきっかけとなる。樹木の種類や特性を理解した上で手入れを行うことによって、多様な樹木が存在し、鮮やかな花や実に彩られた自分たちの理想の空間をコピスクラブは作り出している。
 去年から新たに、「桜の園」と名付けた林床の一区画に、元々原生しているエドヒガンを新たに植え始めた。林床に落ちた種を拾い、1年かけて会員が苗木に育てたものだ。コピスクラブが1年に植える苗木は20本、花を付けるまでには5年程かかる。また、桜は尾根から見下ろして眺められるようにするために斜面に沿って植えられ、手入れにもひと手間が必要だ。桜が一面に咲き誇るのは少し先の話かもしれないが、時間と手間をかけるほど、会員の愛着とこだわりの詰まった場所となる。いつか一面に咲いた花を眺めながら、自分たちで作ったテーブルに持ち寄った食事を囲み、会員みんなでお花見をすることを夢見て、コピスクラブは活動を続けていく。
整備された後の明るい林内
活動に参加して-執筆担当:渡部 彩香(筑波大学) “大阪”という言葉からあなたは“森”を思い浮かべることができるだろうか?私はできなかった。訪問前、その2つの言葉から自分が抱く印象の差があまりにも大きすぎて戸惑っていた。大阪と聞くと、道頓堀、阪神タイガース、西日本一の都市……派手で華やかなものが人混みのように混沌と存在しているイメージがあった。一方で、森には天然資源や野生生物など、素朴で無垢なイメージを持っていた。そして、その2つを何とかして結びつけようと必死に想像をふくらませていた。しかし実際に訪れてみると、言葉の雰囲気に縛られる必要はなかったと判った。コピスクラブの活動する森は確かに、大阪に存在する森なのだが、それ以上に単なる“大阪”でも“森”でもない。豊能町コピスクラブ独自の空間だと感じた。
 活動中、おもむろに一本の枝を渡された。「どこの部分でもいいからこの木を切ってみなさい。どういう特徴がありますか?」樹皮は平滑で、黒味がかっている。言われるがまま切ってみると、中は真っ白、年輪が密になっていた。「堅いでしょう?これはアラカシというのです。堅い上に粘りもあります。だから木刀なんかによく使われているんですよ」コピスクラブでは、このように樹木の持つ特徴をよく踏まえた上で間伐し、クラフト細工に利用している。日常生活で辺りを見渡せば、家具や文房具など木材製品は意外と多い。しかしそれが何という木でできているのか、どのような特徴があるのかと考えることが自分自身あまりなかったことに気づいた。
 また、少し痛い思いをした活動中の経験として、枝切り用の鋸で指に小さな切り傷をつくってしまった。いつか自分もアーボリストの一員として参加するためには、まずは小刀や鋸の使い方を練習しておかねばならない。
作業をするレポーター渡部