企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

自由の森遊歩道を守る会

 北九州市と福岡市のほぼ中間に位置する宗像市(むなかたし)にある自由ヶ丘地区。その街並に隣接した小高い丘に全長1.1kmに亘る遊歩道―「自由の森遊歩道」がある。遊歩道の途中には3か所の展望所があり、ここからは自由ヶ丘地区の街並みを広く見渡すことができる。この遊歩道の開設と保全に携わってきたのが「自由の森遊歩道を守る会」(以下「守る会」)である。事務局長である中山瑞夫(なかやまみずお)さんからお話を伺った。

始まりは住民の要望から

 自由ヶ丘地区はかつてベッドタウンとして開発が進み、北九州市と福岡市から多くの人が住居を移してきた場所である。近年は、住民の高齢化に伴う健康志向の高まりから、ジョギングや散歩ができて、もっと自然と触れ合える場が欲しいという声が出てきたという。こうした要望を自由ヶ丘地区の住民自らの手で形にした憩いの場が「自由の森遊歩道」である。

一からつくりはじめた遊歩道

 当初、遊歩道開設には大きな課題が2つあった。「どの場所にどのような遊歩道をつくるのか」と「遊歩道をつくるときの人手はどうするか」である。それでも自由ヶ丘地区の住民の希望は強く、2008年6月に準備委員会が立ち上がり、計画を立て始めた。その後4回にわたる宗像市との合同の現地調査・調査会議を経て、遊歩道の基本コース原案が作成され、まず最初に、遊歩道をつくる土地の所有者の方々の理解を得るため、話し合いを何度も行った上で、了承を取りつけた。そして、遊歩道開設のためのボランティアの募集がされた。このとき集まった50人程の住民を中心に「守る会」が発足されたのである。
 当時を振り返って「開設に至るまですべての作業を一から始めた」と中山さんは話す。まず「守る会」メンバーは「道のないところに道を切り開く」というやり方を誰も知らなかったそうだ。そこで里山保全に取り組んでいた「宗像里山の会」という団体に協力を依頼し、道を切り開くのに必要な基礎を教えてもらい、手探りで一から遊歩道づくりに取り組んだ。階段や遊歩道に置くベンチに必要な丸太もなかった。そのため、廃材を利用するが、それでも足らないものは「守る会」メンバーの友人に協力を依頼し、寄付という形で資材を提供してもらった。この間には遊歩道をつくる土地の所有者の方々の理解を得るため、話し合いを何度も行った。そして、準備委員会立ち上げから4年経った2010年4月、苦労は実を結び、遊歩道は完成したのである。
遊歩道の入り口には手作りの看板があり、分かりやすくなっている。

現在も続く「事故ゼロ」

 完成から2年経ち、遊歩道の年間利用者は約3000人に上る。この人数は、中間展望所に置いてあるノートへの記帳人数から算出しており、記帳してない人も含めるなら、実際の利用者は約5000人に上るのではないかという。
 これだけ多くの人が利用するようになった遊歩道で「守る会」は、毎月の定例活動日や、日常的にも遊歩道の補修・保全を行い、安全管理を行っている。取材した際も、中山さんを始めとする守る会のみなさんは、気づけば歩く人の体にぶつかるような枝は取り除き、木々に蜂の巣がないかも確認し、常に注意を払っていた。利用者の声だけではなく、周辺の住民からの声を受けて、今年からは夜に出没するイノシシへの対策も始めたそうだ。中村さん曰く「通れることができるだけでは遊歩道とは言わない。安全に利用してもらうために、常に安全管理に気を配ることが大事」なのである。こうした「守る会」の姿勢が、遊歩道の開設以来、今日まで利用者で怪我をする人が出ていないことに繋がっている。
中間展望所から見渡せる街並み。この場所で一息つける。

世代を越えた交流の機会を生み出す

 遊歩道を見守る「守る会」のみなさんには、楽しみにしていることが2つある。
 1つ目は、鳥の巣箱に、鳥が棲みついてくれることだ。鳥の巣箱は、遊歩道近くにある自由ヶ丘小学校の小学生たちと協力してコースの中、二十箇所ほどに設置した。「ここの木に巣箱を設置しよう」「早く多くの鳥が棲みついてくれるといいね」「巣箱の中で、小鳥が育つ様子も見てみたいな」子どもたちと交流しながら設置した巣箱には、まだ棲みつく鳥はいないそうだ。定例活動で遊歩道を歩きながら、鳥たちに巣箱を利用してもらう工夫をメンバーの間でアイデアを出し合っているという。
 2つ目は、遊歩道が子どもたちの声で溢れかえることだ。「守る会」は現在遊歩道の終りにある竹林を切り開いて約500mの新しいコースを作ろうとしている。この新しいコースの先には、伐った竹を利用した「バンブー広場」を作る計画だ。この場所では、学校で味わえない自然体験を子どもたちに提供する学習塾の開設を予定している。「自然と触れ合うだけではなく、この場所は子どもや高齢者をはじめとする地域の人が交流できる場にしたい」この思いから始まった計画は「地域に誇れる夢の場所づくりなんです!」と中山さんは暖かい目で語ってくださった。

人と人をつなぐ遊歩道を支えるもの

 遊歩道など作ったことがない人々が手探りで始めた活動が、今では自由ヶ丘に住む人々をつなぐ活動にまでを広がりつつある。この広がりの原動力は、活動を通じて守る会の皆さん自身が実感している「人と人がつながる喜び」に支えられている。「遊歩道の整備をしているときに、ありがとうと言われることが何より嬉しい。これが地域に貢献することなのかな。」「活動に参加して、みんなと会話したり体を動かしたりすることで、エネルギーをもらっている。参加した日は、普段より体調がいいんだよね。」「活動でみんな集まるから、お酒を飲む機会がつくりやすくなった。」「家族に『家でごろごろばかりしてないで!』と言われて始めた活動が、今ではみんなに会えるので楽しみで仕方ない。」今後、新しいコースが繋がることで、更に多くの人の思いが繋がる遊歩道にするという。遊歩道に溢れる子どもの声と巣箱に棲み付いた鳥のさえずりがもうすぐ聞こえてきそうだ。
活動に参加して-執筆担当:谷内 悠介(中央大学) 私が取材をした日は、大勢の「守る会」の方が集まってくださり、みなさんの熱意にあふれ、楽しそうな姿に圧倒された。定例ミーティングでは、笑い声が飛び交い、時には喧嘩と思われるほどの熱い議論も交わされる。また遊歩道での定例活動では、年配の方も丸太を軽々と持ち上げ、切りにくい竹をノコギリであっという間に切り倒す。私は、今までこんなに生き生きと楽しそうに活動をしている高齢の方々を見たことがなく、自分よりも何倍もパワーがあるのではないかと感じたほどだった。事務局長の中山さんは、「若いころのボランティア体験が老後にふと蘇って、今こうした活動をしているのですよ。」とお話ししてくださった。今回の取材は、私自身が今後ボランティアや地域の活動に積極的に参加していこうと思うきっかけとなった。守る会の皆さんに心から感謝したい。
会員の方に遊歩道の説明を受けているレポーターの谷内