企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

くにたち桜守

 東京都国立市。新宿から電車で30分、都心から少し離れた場所に位置し、閑静な住宅街が立ち並ぶこの街は、東京都内有数の桜の名所としても知られている。春になると中央線国立駅南口から続く大学通りと、そこから東西に交差するさくら通り一面が毎年鮮やかなピンク色に染まり、見事な景観をつくりだす。幅44メートル、長さ2キロメートルの大学通りの両側には、ソメイヨシノを中心に約200本の桜が植えられ、さくら通りの桜も合わせると400本余りの桜がこれらの並木道を彩る。

傷ついた桜

 長年にわたって市民たちの目を楽しませてきた桜だが、これらの多くは地元の人々によって昭和9年から10年にかけて植えられたもので、樹齢70年を越える「老樹」ばかりなのである。一番大きな桜は幹周りが3メートルを超え風格があるものの、周りの環境の変化や桜本来の寿命から、傷みが目立つようになった。そんな桜の様子にいち早く気づき、桜の保全活動のために立ち上がったのが、「くにたち桜守」代表の大谷和彦さんだ。大谷さんは「くにたち桜守」の活動を始めたきっかけをこう語る。「桜並木を歩いているとき、ふと見上げた桜の幹が傷んでいるのに気がつきました」。傷んだ桜をそのまま放っておけば桜が弱ってしまうと心配になった大谷さんは、地域のお祭りの1つである国立さくらフェスティバルを通して、多くの人に国立の桜が弱っている現状を知ってもらおうと、桜の植樹をした人のパネルを展示したり、桜の短歌を募集したり、桜のポストカードを制作し販売したりと、様々な企画を考えた。そうした大谷さんの思いや行動が結実し、「くにたち桜守」という団体の設立に至ったという。大谷さんの活動が始まって20年が経過した現在では、100人を越える会員が「くにたち桜守」に登録し、毎月の活動に励んでいる。
大学通りの桜

小さな桜守

 「くにたち桜守」が目指すものは、桜をきっかけにした地域づくりである。例えば、市内の小・中学校、高校に通う生徒に授業を通して桜の保全活動に参加してもらい、桜並木でのゴミのポイ捨て禁止のポスターを書いてもらっている。実際にこのポスターを掲示したところ、大きな成果があったという。
 「傷んだ桜が元気な姿に戻るのには3~10年もかかり、成果は分かりづらいものですが、桜守の活動を始めて、目に見えて変わったのは花見の季節の街のゴミの量。15、6年前と比べて10分の1ほどに減ったんですよ」大谷さんの口調は誇らしげだった。
 子どもとの関わりは授業だけにとどまらず、学校という枠組みを離れて「くにたち桜守」の毎月の活動に自ら進んで参加する子もいるという。桜を題材にすることで子どもたちに実感をもって環境問題について学ぶ機会を提供している。環境問題を自らにひきつけて考えることは難しいことであるが、自分たちの街で起きている身近な問題として「くにたち桜守」は子どもたちに教えているのである。
 子どもたちが「くにたち桜守」の活動に参加し、国立市の地域づくりに積極的に関わっていくことで、子どもたち自身が自分たちの暮らす街について考え、そして街に対しても責任をもつようになるのだ。
空洞化した桜の前で説明する大谷さん

桜は街を好きになるきっかけ

 全国には多くの桜の保全団体が存在するが、「くにたち桜守」がそれらと異なるのは、団体の目的が桜の保全活動ではないということだろう。「くにたち桜守」にとって桜の保全活動というのは、あくまで地域づくり、街づくりの手段であってそれ自体が目的ではないのである。「くにたち桜守」が目指すものは、国立が誇る桜の保全活動を通して自分たちの暮らす街を好きになってもらうことなのだ。
 「桜をきっかけに、子どもたちに自然を思いやる気持ちを持って欲しい、自分たちが植えた桜がある街を好きになって欲しい」と大谷さんは言う。
 取材の最中、大谷さんと国立の並木道を歩いていると、子どもや若者、大人までもが「大谷さん、こんにちは!」と挨拶をしてくる。草刈りをしているとその様子を道行く人が覗きに来て、やり取りが生まれる。それだけ大谷さんたちの活動が地域に根付いている証であり、そこに国立市の世代を越えた人と人の結びつきの一端を感じた。
 桜の保全活動への参加の経験があれば、自分たちが暮らす国立という街に対して、より当事者意識をもつことができる。そうして生まれる街への責任というのが、自分たちの街を愛する、ということではないだろうか。“桜を通して、国立の街をみんなでよくしていきたい”、それが「くにたち桜守」の願いなのである。
活動に参加して-執筆担当:矢作 薫(中央大学法学部) 取材の際に大谷さんは「国立の桜を百年桜にしたい」とおっしゃっていました。国立の誇る桜は、町に住む人々の自然を思いやる気持ちさえあれば、まだまだ元気に花を咲かせ続けることができるというのです。大谷さんは、活動に参加した小学生や中学生の手紙も見せてくださいました。「くにたち桜守」の活動に参加した彼らの手紙は、痛んだ樹木の保護や植樹を行ったことによる身近な自然の再発見と問題意識、自然の尊さについての「気づき」にあふれていました。そんな“小さな桜守”たちの素直な言葉を読んでいると、国立の桜を百年桜にするということは、決して不可能なことではないのだな、と感じました。大谷さんたち「くにたち桜守」の想いを受け止め、つないでいくその担い手の姿を、そうした手紙のなかに見たような気がしました。
大谷さんのお話しをうかがうレポーター